東京高等裁判所 昭和42年(ネ)2636号・昭42年(ネ)2596号 判決
しかして第一審原告は右和解条項第五項(表題参照)は、第一審原告が本件建物を改築するときはその工事期間中第一審被告は無条件で本件建物から退去して改築に協力するとの趣旨であると主張し、当審および原審証人秋山邦夫の証言中には右主張に添う供述があるが成立に争のない甲第一号証(和解調書)によれば右第五項には「協力する」との文言があるのみで、その協力の具体的内容については何らの記載がないことおよび原審証人吉原歓吉の証言に照らして、右秋山証人の証言部分は直ちに信用することはできず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。
当審における証人秋山邦夫の証言の一部、原審証人吉原歓吉の証言によれば、右和解に際し、第一審原告において本件建物の改築の希望があつたが、その時期、規模、設計などは必ずしも具体的に定まつていなかつたので、具体的な約定をなすことができず、単に「協力する」という表現の程度に止めたものであることが認められる。しかし、いやしくも改築協力のことが和解条項の一項として特に定められている以上、たやすくこれを単に道義的な約束にすぎないものと断定することは許されず、むしろ前記和解成立の経過、前顕甲第一号証、前顕秋山、吉原各証人の証言によれば、第一審被告において信義に反して故なく本件建物の改築に対する協力を拒むときは、第一審原告は第一審被告の右協力義務違背の故を以て和解契約を解除できるというのが、右和解条項第五項の趣旨と解するのが相当である。
しかして、当審および原審における証人中西[金生]治の証言によれば、第一審被告は、本件について行はれた調停およびその以前において第一審原告の申出でた本件建物改築についての条件特に改築後賃貸される建物の面積、賃料、明渡に要する準備期間、休業補償等につき第一審被告側の希望を述べて折衝を重ね建物の面積を譲歩するなどして協力したが結局細部についての妥協点が見出せず不調に終つたのであつて、第一審原告の改築申出に対して信義に反し故なく全面的にこれを拒否する態度をとつたものではないことが認められる(右認定を覆すに足りる証拠はない)。そうだとすれば、改築期間中の明渡及び改築後の賃貸借に関して結局その具体的諸条件が協定できなかつたことをとらえて、一概に第一審被告の非協力の故であるとし、同被告が右和解条項第五項に違反するものとなすことはできない。それ故、右条項違反を理由とする本件建物賃貸借契約の解除はその効力がない。
(川添利 荒木 長利)